循環器総論―心臓の生理
- 補助循環とは
- 大動脈バルーンパンピング(IABP)
- 経皮的心肺補助装置(PCPS)
- 左心補助装置(L-VAD)
- 心移植
今回は前回に引き続き、心収縮を補助する機械的補助装置である、経皮的人工補助法(PCPS)について説明します。
3 経皮的心肺補助装置 Percutaneous Cardio Pulmonary Supportとは
大動脈バルーンパンピングが心収縮を補助する機械的装置に対して、
経皮的心肺補助装置は心機能と肺機能両方を補助します。
生理的な循環動態は、全身から心臓(右心房)に戻り、心臓(右心室)から肺へ送られます(肺循環)。
その後、肺から心臓(左心房)に戻り、心臓(左心室)から全身へ送られます(体循環)。
1分間に1-6Lの血液が維持できます。
正常の50−70%の拍出量を維持できます。
しかし、心拍出とは異なり、拍動がなく定常流であるため、臓器還流に関しては同じ血液量でも拍動流の方が多いと言われています。
心臓の機能は全員へ血液を送るポンプ作用ですが、
肺の機能は血液中の二酸化酸素を排出し、空気中の酸素と交換する換気機能です。
そのため、右心房・右心室の血液は二酸化酸素を多く含むため静脈血、左心房・左心室の血液は酸素を多く含むため動脈血と呼ばれます。
- ●静脈血―二酸化炭素を多く含む血液。外見上黒く見える血液のこと
- ●動脈血―酸素を多く含む血液、外見上赤く見える血液のこと
心腔内の酸素飽和度は以下のようになります。
数値は大体になります。絶対的な数値ではないです。スワンガンツカテーテルにて測定します。
- ●酸素飽和度とは
酸素飽和度―赤血球中のヘモグロビンのうち、酸素と結合しているヘモグロビンの割合です。臨床的にはパルスオキシメーターという機械で測定されます。
健康成人の正常範囲は96−99%です。
加齢や喫煙者の正常範囲は下がることがあります。
90%未満になると呼吸困難感が出現し、酸素吸入が必要になる可能性が高いです。
- ●経皮的人工補助法の使用方法
経皮的人工補助法は静脈と動脈にそれぞれ、脱血管と送血管を挿入します。
静脈から脱血して、人工的に酸素化(血液中のヘモグロビンと酸素を結合させること)して、動脈に送血します。
臨床的には大腿動脈と大腿静脈に挿入することが多いです。
解剖学的には静脈が心臓に対して屈曲が少ない右大腿動・静脈からの挿入の方が容易です。
脱血管の先端は右心房まで挿入し、送血管の先端は腹部大動脈まで挿入します。
- ●経皮的心肺補助装置の適応
①心筋梗塞や心筋炎で,IABP施行下でも心係数が1.5L/min/m2以下の重症ポンプ失調例,②難治性で繰り返す心室細動や心室頻拍患者,③急性冠症候群の冠動脈形成術までのサポートやブリッジ,④急性肺血栓塞栓症によるショック,⑤偶発性低体温による循環不全,⑥心肺停止蘇生例などである。
禁忌は,①非可逆的脳障害,②大動脈解離,③止血困難な進行性出血,④悪性疾患の末期状態など
日本救急医学会
とされていますが、臨床的はどんな薬物治療を施しても心拍出量が保てない病態であれば迷わず挿入します。
- ●経皮的心肺補助装置の合併症
- 1. 下肢虚血(足に血液が流れなくなること)
送血管が太く、挿入した大腿動脈を閉塞することにより下肢虚血となることがあります。
下肢に血液が行かなくなり、急性動脈閉塞と同様の症状が出現し、処置が遅れると壊死することもあります。
合併症を避けるために内科的、外科的な対処方法があります。
- ●内科的対処方法―閉塞部位より末梢に血液を送るために送血管の分枝を挿入する。
- ●外科的対処方法―挿入血管に人工血管を縫合し、人工血管と送血管を装着します。人工血管から血液を送ることで人工血管吻合部から中枢側と末梢側(下肢側)に送血することができ下肢虚血の合併症を避けることができます。
- 2. 血行再建後症候群
送血管抜去後や下肢再循環が遅れると血行再建後症候群が生じることがあります。血行再建後症候群とは一度壊死した細胞から、再灌流により毒性物質が全身へ流れ、代謝異常をきたす病態です。
- 3. 出血・皮下血腫
経皮的人工補助法を使用する際には血液が固まらないように抗凝固薬を使用することが多いです。そのため、脱血管・送血管の挿入部位から出血が継続したり、皮下血腫となることがあります。
- 4. 血栓塞栓症
生体の遺物反応により、異物である管に血栓が形成され、その形成血栓が血液に乗り、血管に詰まることで血栓塞栓症が発症します。特に肺動脈につまると重篤な肺血栓塞栓症を発症することもあります。
その他、感染症、血管損傷、血小板減少などがあります。
- ●臨床的な使用期間
臨床的には経皮的心肺補助装置を施行後、1週間以内に回復すれば離脱できる可能性は高いです。1週間を超えて、致命的病態が改善しないと離脱できる可能性は低いです。
なぜなら、1週間を超えると経皮的人工補助法自体の上記合併症が起こりさらに状態が悪化する可能性が高いからです。
- ●ECMOとの違い
ECMO(エクモ)とはextracorporeal membrane oxygenation「体外式膜型人工肺」の略です。
ECMOは肺機能(換気機能)だけを補助する、体外式装置です。
酸素化のみ行うため送血管、脱血管共に静脈に挿入します。
両側大腿静脈か、右内頸静脈・右大腿静脈から挿入することが多いです。
PCPSは前述しましたが心機能と肺機能を補助する体外式装置です。
静脈ーVein、動脈ーArteryであるため、
単純にECMOというとVV-ECMOのこと、PCPSをVA-ECMOと言うこともあります。
COVID-19肺炎が重症化するとECMOが必要になることがあることが報じられたことで一般的に知っている人が多いと思います。
肺炎は肺機能のみの低下であり、心機能の低下ではないため純粋な肺機能低下のみではVV-ECMOを選択します。
しかし、心疾患の既往歴があるかたでは肺機能低下に伴い心機能低下も同時に起こる可能性もあるためVA-ECMOを選択することもあります。
まとめ
- ●経皮的心肺補助装置は心機能と肺機能両方を補助します。
極論から言うと心臓と肺が止まっていてもこの装置だけで生命活動を維持することができます。
もちろん、様々な合併症が起こるため1週間以上は現実的ではないため、1週間以内に装置から離脱できるくらい心臓の回復を待つ治療になります。
今回はこれで終わります。お疲れ様です。
次回は左心補助装置(L-VAD)と心移植を説明します。
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