循環器総論―聴診(心音)
今回は聴診に関して説明します。
聴診とは
聴診とは診察のうち音を聞き取って行うものである。
基本的には聴診器を使用し、胸部、腹部、頸部を診察する。
稀に頭部や腫瘤部を聴診することもある。
胸部の聴診では心音、呼吸音(気管支や肺野など)、頸部静脈音などを聴診し、腹部では腸蠕動音、グル音などを聴取する。
循環器の内容なので心音について説明ます。
聴診部位
基本的な聴診部位は五箇所です。
- ●第2肋間胸骨右縁
- ●第2肋間胸骨左縁
- ●第3肋間胸骨左縁
- ●第4肋間胸骨左縁
- ●心尖部
なぜこれらの部位を聴診するかというと、その部位に対応する弁があり、それぞれの弁異常で最も聴診しやすい場所だからです。
- ●第2肋間胸骨右縁―大動脈弁狭窄症で聴診されやすいです
- ●第2肋間胸骨左縁―肺動脈弁領域
- ●第3肋間胸骨左縁―大動脈弁閉鎖不全症で聴診されやすいです
- ●第4肋間胸骨左縁―三尖弁領域
- ●心尖部―僧帽弁領域
大動脈弁は圧格差が大きく、流速の向きにより聴診しやすい部位は異なります。
大動脈弁狭窄症の場合は頚部まで放散されるため、頸部聴診で心雑音が聴診されます。
第3肋間胸骨左縁は「erbの領域」と呼ばれ、全ての心雑音が聴診できる可能性があります。
心音とは
心臓の音は良く「トトン」と表現さるように、「ト」と「トン」に分けられます。
医学的には「ト」をI音、「トン」をII音と言います。
- ●I音:房室弁(僧帽弁と三尖弁)の閉鎖するときの音です。
- ●II音:動脈弁(肺動脈弁と大動脈弁)が閉鎖する時の音です。心基部でよく聞こえます。肺動脈の閉鎖音をIIp音、大動脈の閉鎖音をIIa音と言います。
過剰心音
過剰心音とは、I音とII音それ自体の異常とI音とII音の前後で聴取される異常心音のことです。
I音の異常
I音:房室弁(僧帽弁と三尖弁)の閉鎖するときの音です
I音の異常には亢進・漸減・分裂があります。
亢進:弁が一気に強く閉鎖するために聴取されます。左室収縮力の増強(運動、発熱、貧血、甲状腺機能亢進症、脚気)、僧帽弁狭窄、PQ時間短縮、完全房室ブロックなどで生ます。
CANNON SOUND:完全房室ブロックなどの別々に心房・心室の収縮がしている時に、たまたま同時に収縮するさいに聴取される大きなI音のことです。
漸減:弁が弱く閉鎖するために聴取されます。左室収縮力の減少(甲状腺機能低下症、拡張型心筋症、心筋梗塞など)、僧帽弁閉鎖不全症、PQ時間延長などがあります。
分裂:不整脈の一種である脚ブロックにより、僧帽弁と三尖弁の閉鎖するタイミングがズレる時に聴取されます。
II音の異常
動脈弁(肺動脈弁と大動脈弁)が閉鎖する時の音です。心基部でよく聞こえます。肺動脈の閉鎖音をIIp音、大動脈の閉鎖音をIIa音と言います。
心室圧より動脈圧の方が高くなる(動脈圧>心室圧)と心室内に逆流しないように大動脈弁・肺動脈弁が閉鎖します。
正常では肺動脈より大動脈の方が高圧であるため、IIpよりIIaの方がわずかに早いです。
I音の異常と同様にII音の異常にも亢進・漸減・分裂があります。
亢進:動脈圧が高くなり(動脈圧>>心室圧)、弁を押す力が強くなるとII音は大きくなります。
- ●IIa亢進:高血圧、大動脈弁閉鎖不全症など
- ●IIp亢進:肺高血圧、肺動脈閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、心室中隔欠損症など
減弱:弁の肥厚・硬化で可動性が低下することで、弁を押す力が弱くなるとII音は小さくなります。
- ●IIa減弱:低血圧、大動脈弁狭窄症など
- ●IIp減弱:肺動脈狭窄症など
II音の分裂
II音はもともと大動脈弁成分のIIaと肺動脈弁成分のIIpに分かれています。
分裂には健常者で見られる生理的分裂と、心疾患症例で見られる病的分裂、固定制分裂、奇異性分裂があります。
●生理的分裂:吸気時に静脈還流量が増加し、右室拍出量が増えるためIIpが遅れます。
●病的分裂:IIa〜IIpの間隔が呼気・吸気ともに幅広く分裂(IIpが遅れる)します。
- ●呼気時にIIpが遅れる:右室からの血流が多く駆出時間が延長する。(僧帽弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症など)また、肺動脈狭窄症による駆出時間の延長が見られます。
- ●吸気時にIIpが遅れる:肺動脈弁の閉鎖が遅れることで起こります。(右脚ブロック)
固定性分裂:IIa〜IIpの間隔が呼吸によらず一定。吸気呼気共に左右シャントを増減を通して右房。右室の血液量の変化がない心房中隔欠損症で起こります。
奇異性分裂:IIpがIIaに先行する。吸気時より呼気時の方が分裂がはっきりする。
大動脈弁の硬化・石灰化により可動性が低下し、左室から大動脈への駆出が妨げれられ駆出時間が延長する。(大動脈弁狭窄症)また、左室の収縮が遅れ、大動脈弁の閉鎖が遅れることで起こります。(左脚ブロック)
I音前後の異常心音
I音前後の異常心音にはIV音、駆出音、収縮中期クリック音などがあります。
IV音:
- 重症左心拡大や心肥大症例の心尖部で聴取される。
- 心室壁が進展できない時に心房収縮時の心室流入血流により生じる衝撃音です。
III 音と異なり IV 音が聞こえたらそれだけで病的な所見です。心筋が肥厚し、左室のコンプライアンスが低下していると考えられます。
心拡大が起こると III 音が、心肥大が起こると IV 音が聞かれる。III 音、IV 音共に聴かれる場合を gallop rhythm といい、心不全、虚血性心疾患、DCM、過剰輸液のサインです。
主な疾患:うっ血性心不全、高血圧、大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症など
駆出音
肥大・硬化した動脈弁(肺動脈弁・大動脈弁)が開放する時に第2肋間胸骨右縁(大動脈弁領域)、第2肋間胸骨左縁(肺動脈弁領域)で聴取される。
主な疾患:大動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、高血圧など
収縮中期クリック音:僧帽弁弁尖が収縮期中期に左房側へ偏位する時に心尖部で聴取される。僧帽弁弁尖が逸脱する僧帽弁逸脱症の病態の時で生じます。
II音前後の異常心音
II音前後の異常心音には僧帽弁開放音、心膜ノック音、III音があります。
僧帽弁開放音:拡張早期に肥大・硬化した僧帽弁弁尖が開放する時に心尖部で聴取できます。僧帽弁の肥大・硬化して僧帽弁狭窄症の病態で生じます。
心膜ノック音:肥大・石灰化した心膜に拡張期に心室壁が当たる時に心尖部で聴取できます。心膜が肥大・石灰化した収縮性心膜炎の病態で生じます。
III音:心室壁の伸展性が低下した心拡大症例の心尖部で聴取される。心房から急速に心室へ血液が流入する際に生じる衝撃音です。
IV音と異なり健常な若年者でも生じることがあります。(生理的III音)
III 音の病的意義は心室コンプライアンス低下、心室拡張期容量負荷です。
心拡大が起こると III 音が、心肥大が起こると IV 音が聞かれます。(2回目)
まとめ
聴診とはー診察のうち音を聞き取って行うものである。
聴診部位
基本的な聴診部位は五箇所です。
- ●第2肋間胸骨右縁
- ●第2肋間胸骨左縁
- ●第3肋間胸骨左縁
- ●第4肋間胸骨左縁
- ●心尖部
心音とは
- ●I音:房室弁(僧帽弁と三尖弁)の閉鎖するときの音です。
- ●II音:動脈弁(肺動脈弁と大動脈弁)が閉鎖する時の音です。心基部でよく聞こえます。肺動脈の閉鎖音をIIp音、大動脈の閉鎖音をIIa音と言います。
過剰心音
- I音とII音それ自体の異常心音
- I音とII音の前後で聴取される異常心音
これで今回の内容を終わります。お疲れ様でした。
次回は心雑音について説明します。
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