循環器各論―大動脈疾患
大動脈疾患
- 大動脈瘤
- 大動脈解離
- 大動脈炎
今回は大動脈解離に関して説明します。
- 大動脈解離とは
- 有病率
- リスク因子・原因
- 分類
- 症状
- 検査
- 治療・手術適応
- 合併症
- 予後
大動脈解離とは
大動脈解離とは
「大動脈壁の内膜が裂けて、中膜のレベルで内外2層に剥離し,その間に偽腔(解離腔)を形成し大動脈の走行に沿ってある長さをもち2腔になった状態」です。
大動脈壁が裂けて血液が偽腔へ入ってくる入口部をエントリー、偽腔から真腔への再入口部をリエントリーと呼びます。
前回の大動脈瘤は大動脈の局所的拡大ですが、大動脈解離は大動脈中膜内の一定の長さに偽腔を形成します。
そのため、名前は似ていますがに別の病態です。
ただし、慢性期の大動脈解離に局所的な癌化が生じることを解離製大動脈瘤といいます。
有病率
日本における大動脈瘤と大動脈解離に関する全国統計はいまだなく,その正確な発症率は不明です。
東京都急性大動脈スーパーネットワークのデータでは,急性大動脈解離の発症は10万人あたり年間10人であると報告されています。
大動脈解離は非常に死亡率が高く、様々な症状がでる非常に重要な疾患です。
病院着前死亡は61.4%に及び、発症から死亡まで1時間以内は7.3%,1~6時間は12.4%,6~24時間は11.7%です。
病院着前死亡と併せると、93%が24時間以内に死亡したことになります。
引用元
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdfリスク因子・原因
大動脈解離の発症のピークは男性70歳代、女性80歳代です。
原因に高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や加齢、喫煙やストレスによる動脈硬化症があります。
また、そのほかの原因疾患しては大動脈瘤と同じですが、
- 繊維織結合の脆弱性:Marfan症候群、Behcet病、,Ehlers-Danlos症候群、梅毒など
- 高血圧:高血圧症、妊娠高血圧症候群など
- その他、医原性、外傷などがあります。
Evidenceはありませんが、中年男性の独居、肥満体型は臨床的にハイリスクです。
分類
大動脈解離には主に2つの分類があります。
- 解離範囲による分類―DeBakey分類・Stanford分類
- 偽腔の血流状態による分類―偽腔開存型・偽腔閉鎖型・ULP型
- 病気による分類―超急性期、急性期、亜急性期、慢性期
解離範囲による分類
- DeBakey分類:内膜亀裂部の位置と解離範囲で分類
- Stanford分類:内膜亀裂部の位置に関係なく、解離範囲のみ(上行大動脈が含まれるかどうか)で分類
上行大動脈は心臓に近く、上行大動脈解離の合併症として心タンポナーデとなり、死亡率が高いため、臨床的に非常に大切です。
そのため、臨床的にはStanford分類をよく用いられます。
弓部大動脈にエントリーがあっても逆行性に上行大動脈に乖離が及んでいればStanford分類ではA型であるため緊急手術の適応になります。
偽腔の血流状態による分類
- 偽腔開存型:エントリーから流入した血液がリエントリーから流出しており、偽腔に血流がある状態です。
- 偽腔閉鎖型:偽腔が血栓で完全に塞がっていて、偽腔に血流がない状態です。
- ULP型:エントリーから偽腔に突出する血流(ulcer like projection ULP)は確認できるが、流入した血液はリエントリーから流出せず、ほとんどが血栓となっている状態です。
病気による分類
- 超急性期:発症48時間以内
- 急性期:発症2週間以内
- 亜急性期:発症後3週目(15日目)から2ヶ月まで
- 慢性期:発症後2ヶ月を経過したもの
発症後2週間は再解離や瘤径拡大、偽腔開存依存型への移行などの様々な合併症が起こるため集中管理が必要になります。
発症から3ヶ月以上経てば血管壁の繊維化も進んできているため縫合不全やステント関連合併症の確率も減らすことができます。
症状
- 疼痛―発症時に胸部・ 背部に激痛を訴え,過去に経験したことのない強い疼痛と表現されることが多いです。性状は鋭く引き裂かれるような痛みであり、突然発症が特徴的です。
- 失神―急性大動脈解離が心や脳血管に至る場合,心タンポナーデ や脳虚血により生じます。疼痛による迷走神経反射でもおこります。
- 破裂―解離腔は外膜のみで覆われています。そのため、高圧により破裂し、心膜が覆っている上行大動脈に 解離が波及した場合には,心タンポナーデを発症する可能性があります。
- 大動脈弁閉鎖不全症―解離が大動脈弁まで到達すると急性大動脈弁閉鎖不全症となり、急性心不全の病態となります。
- 胸部・腹部大動脈分枝の還流障害―解離により大動脈分枝に狭窄や閉塞が発生した場合、その分枝から血液供給を受けている臓器の灌流障害が生じ,さまざまな症状を呈します。
検査
大動脈解離を疑ったら一刻の猶予もないため、すぐに造影CT検査を施行します。
腎機能が悪い方は造影剤腎症の合併症があり、透析導入の可能性があります。
- まずは上行大動脈を確認し、緊急手術の有無を判断します。
- 次にエントリーを確認し、人工血管置換術かステントグラフト治療かを判断します。
- 同時に偽腔開存か血栓閉塞かを判断します。
図は上行大動脈に解離腔が及んでいるためStanfordA型であり、偽腔開存型であるため緊急手術の適応となります。
左鎖骨下動脈より遠位部より解離腔が認める場合はStanfordB型です。
造影CTにて確定診断します。
疼痛以外の症状がある時は撮影範囲を広げたり、その他の検査を追加します。
- 失神や片麻痺―脳梗塞、梗塞性出血が疑われるため頭部まで撮影します。
- 腹痛―腸間膜動脈などの腹部分枝まで解離が及んでいることが疑われるため腹部分枝血流も入念に評価します。
- 下肢疼痛ー腸骨動脈まで解離腔がおよび解離腔による閉塞が疑われます。
- 心不全症状―心エコーによる大動脈弁閉鎖不全症の評価が必要です。
- 胸痛―冠動脈まで解離腔がおよび、解離腔により閉塞し急性心筋梗塞が疑われるため心電図で確認します。
- 対麻痺ー胸部下行大動脈から脊椎動脈が分枝しているため、脊椎動脈の閉塞が疑われます。
また、弓部分枝(腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈)、腹部分枝(左右腎動脈、上下腸間膜動脈)が真腔優位か偽腔優位かで治療方針にかかわるため評価する必要があります。
その他、一般的に採血(BNP、トロポニンなど)、胸部レントゲン(心拡大、肺うっ血所見など)、バイタルチェック(血圧、酸素飽和度、意識など)などを確認します。
今回はこれで終わります。
次回は治療から説明します。
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