循環器各論―静脈疾患
下肢静脈疾患
- 下肢静脈瘤
- 深部静脈血栓症
- 静脈炎
今回は下肢静脈瘤に関して説明します。
- 下肢静脈瘤とは
- 分類
- 症状
- 原因
- 検査
- 治療・手術適応
- 合併症
- 予後
下肢静脈瘤とは
下肢静脈瘤とは下肢の表在静脈が立位で3mm以上拡張し蛇行した状態のことです。
疾患自体は良性疾患であり、急に悪化したり命に関わることはありません。
進行も年単位ですが、症状は慢性的で生活の質を低下させます。
分類
総論で解説したように静脈は容量血管であり、解剖的に重力に抗えるように逆流防止弁がついています。
- 一次性静脈瘤―表在静脈や穿通枝の逆流防止弁が壊れて、静脈血が表在静脈を逆流することにより拡張すること。
- 二次性静脈瘤―深部静脈の血栓閉塞などで表在静脈が静脈血の迂回路として機能しており、相対的に表在静脈内の静脈血が多くなり拡張すること。
手術の適応となるのは一次性静脈瘤だけです。
二次性静脈瘤を手術してしまうと下肢うっ血が悪化してしまいます。
また、下肢静脈瘤には外見上以下の4種類があります。
- 伏在型静脈瘤
- 側枝型静脈瘤
- 網目状静脈瘤
- クモの巣状静脈瘤
- 伏在型静脈瘤
下肢静脈には多くの表在静脈があり、大伏在静脈と小伏在静脈もそのうちの一つです。
- 大伏在静脈―下肢の内側を走行し、足の付け根(鼠径部)で深部静脈に合流します。
- 小伏在静脈―アキレス腱あたりからふくらはぎの真ん中を通って、膝上あたりで深部静脈に合流します。
- 側枝型静脈瘤
大伏在静脈あるいは小伏在静脈から分枝した静脈の逆流防止弁が壊れ、逆流が生じることで発症します。
伏在静脈型の拡張や蛇行はさほどではないですが、側枝型静脈瘤は皮下脂肪の層を走行するため蛇行が著しくなる傾向があります。
- クモの巣状静脈瘤
皮下の直下の層を走行する直径0.1-1mmほ毛細血管です。
正確には静脈瘤ではなく毛細血管拡張症といいます。
静脈瘤ではないため逆流防止弁が壊れて発症するわけではなく、ホルモンの影響や遺伝などに加えて静脈圧が上がることで毛細血管が拡張・蛇行します。
- 網目状静脈瘤
網目状静脈瘤もクモの巣状静脈瘤と同様に直径1mm程度の毛細血管の拡張によるものです。
症状
- ふくらはぎがだるい・おもい
- 足のむくみ
- こむら返り
- 掻痒感・湿疹
- むずむず感・不快感
- 色素沈着
- 潰瘍
下肢静脈瘤の症状の原因は下肢に静脈血がうっ滞することで下肢静脈圧が上昇することで生じます。
そのため、朝より夕にかけて症状は悪化していきます。
伏在型静脈瘤と側枝型静脈瘤では上記症状が生じますが、クモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤は静脈瘤ではないため上記症状も含めて、症状は生じません。
原因
静脈瘤の原因は一次性・二次性で解説しましたが、一次性静脈瘤のリスクには以下の因子があります。
- 高齢者
- 女性
- 妊娠
- 出産歴
- 立ち仕事
- 肥満
- 便秘
- 遺伝
遺伝子が関与しているかどうかは明らかになっていません。
しかし、家族に下肢静脈瘤の患者がいると下肢静脈瘤になりやすいことはわかっています。
両親とも下肢静脈瘤だと90%、片親のみだと25〜62%、両親とも下肢静脈瘤でないと20%が下肢静脈瘤を発症すると言われています[※]。※ Cornu-Thenard A, Boivin P, Baud J M, et al.: Importance of the familial factor in varicose disease. J Dermatol Surg Oncol 20: 318–326, 1994
http://www.think-vein.jp/qa1_2.html#:~:text=about2.html%23about2_4-,Q13
手や腕の静脈瘤はきわめて珍しく、ほとんどの場合は高齢の方やスポーツ選手に見られる静脈の拡張であるため病気ではありません。
検査
下肢静脈瘤の検査には理学的検査と画像検査があります。
- 理学的検査―Trendelenburg試験、Perthes検査
- 画像検査―超音波検査、単純CT検査、造影CT検査、MRI検査
✔︎理学的検査
- Trendelenburg試験―一次性静脈瘤の伏在型静脈の弁不全の部位を評価する。また、穿通枝の弁不全の有無を評価する。
- Perthes検査―骨格筋のポンプ作用を利用し、表在静脈から深部静脈へ血液を送ります。一次性と二次性の評価をします。
Trendelenburg試験とは
●仰臥位で下肢挙上 怒張(-)→二次性静脈瘤→深部静脈血栓評価
↓ 怒張(+) 一次性静脈瘤
●大腿部を駆血帯で縛る
↓
●膝窩静脈を圧迫して起立 怒張(+)→大伏在・小伏在静脈・穿通枝の弁不全あり
↓ 怒張(-)
●膝窩静脈の圧迫解除 怒張(+)→小伏在静脈の弁不全あり
↓ 怒張(-)
●駆血帯をはずす 怒張(-)→静脈弁正常
↓ 怒張(+)
●大伏在静脈の弁不全あり
Perthes検査
●起立した状態で大腿部に駆血帯を巻く
↓
●約1分間、屈伸運動・歩行などをする(骨格筋ポンプ作用)
表在静脈から深部静脈へ血液を流す
↓
●立位で静止させる 怒張(–)→Perthes陰性
↓ 怒張(+)
Perthes陽性
→二次性静脈瘤、深部静脈閉塞・穿通枝の弁不全あり
✔︎画像検査
- 超音波検査
- 単純CT検査
- 造影CT検査
- MRI検査
- 超音波検査
下肢静脈瘤の最も一般的な検査は超音波検査です。
エコー検査とも言われ、主に大伏在静脈・小伏在静脈を検査します。
逆流の有無を評価するため、検査中に足を押して(ミルキング)血液の流れを確認します。
大伏在静脈と深部静脈の合流部位の逆流の検査です。
2. 単純CT検査
血管の走行を正確に評価したい場合や超音波検査では評価が難しい穿通枝の評価する場合には単純CT検査(造影剤を使用しない検査)を施行することもあります。
穿通枝とは表在静脈と深部静脈を繋ぐ血管のことです。
基本的には表在静脈から深部静脈へ一方通行です。逆流防止弁もあります。
穿通枝は場所により名前がついています。
- Dodd―太ももの下1/3程度にある。大伏在静脈と浅大腿静脈の間。
- Boyd―膝下直下にある。大伏在静脈と後脛骨静脈の間。
- Cokktt―ふくらはぎの中央くらいにある。大伏在静脈の枝と後脛骨静脈の間
3,4, 造影CT検査とMRI検査
造影CT検査とMRI検査では単純CTと同様に静脈の形態、深部静脈の開存静脈を評価できますが逆流の状態は評価できません。
二次性静脈瘤を疑った場合に深部静脈の血栓評価のため行うことが多いです。
今回はこれで終わります。お疲れ様でした。
次回は治療と合併症について説明します。
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