循環器総論―検査
今回は胸部レントゲンについて説明します。
この検査は循環器系だけでなく幅広く行われています。
特に呼吸器の領域や入院時の必須検査にもなっています。
- 心電図
- 胸部レントゲン
- 採血、BNPとトロポニンの意味
- 経胸壁心エコー検査
- 冠動脈CT検査
- 心臓カテーテル検査
2. 胸部レントゲン
健康診断でもよく胸部レントゲンを撮りますが、何がわかるのでしょうか。
- 胸部レントゲンは胸部にX線を照射して、肺・気管・肺胞、心臓・大血管、横隔膜などの照射範囲の臓器・器官の異常を調べる検査です。
X線はドイツのWilhelm Conrad Röntgen(ヴィルヘルム・コンラート・レントゲン)によって、1895年に発見されました。
レントゲン検査はX線照射装置とフィルムの間に被写体を置いて、フィルム(感光板)に向かってX線を照射します。
X線は感光板を黒くするため、X線が透過したところは黒く映ります。
体の外側や肺が黒く写るのはX線を遮るものがないためそのまま透過するからです。
肩や骨などの筋骨格、心臓や大動脈、横隔膜などの上腹部はX線を吸収します。
臓器によって吸収のしやすさは異なります。
- 一般的に 骨>筋>血液>脂肪>肺の順で黒く写るようになります。
胸部レントゲン一枚でも様々な評価ができます。
- ●軟部組織の評価
- ●骨の評価
- ●上縦隔の評価
- ●心臓の評価
- ●横隔膜の評価
- ●肺野の評価 など
様々なことを目的として撮影されます。
特に多いのが肺炎の評価で撮影することだと思います。
レントゲンの読影の順番
順番は特に決まっていませんが見逃しがないようにすることが一番大切です。
教科書的には以下のような順番があります。
胸郭→左右肺野の明るさの対比→中央陰影→気管支系→血管系→肺区域の確認→異常所見と読影します。
この順番は肺野を特に重点的に読影しています。
肺野と心陰影以外の部位は以下のように撮影されています。
ここでは循環器の検査としての胸部レントゲンなので心臓の評価について説明します。
胸部レントゲンの心陰影の見方
胸部レントゲンに写った心臓の影のことを心陰影といい、場所によって名前がついています。
それぞれ何が写っているかも覚えられたら覚えて下さい
- 右第1弓―上大静脈、主に頭や両手からの血液が心臓戻ってくる時に通る血管
- 右第2弓―右心房、上大静脈と下半身からの血流を集めた下大静脈が合流する心臓の最初の入り口
- 左第1弓―大動脈弓、大動脈の上から下への折り返し地点
- 左第2弓―肺動脈幹、心臓から肺へ血液を送る血管
- 左第3弓―左心耳、左心房にある耳のように見える場所、心房細動の時に問題となる臓器
- 左第4弓―左心室、心不全により顕著に拡大
胸部レントゲンを見て、正常心陰影の場所がわかれば次に大切なことは心胸郭比を測定することです。
心胸郭比とは
心胸郭比とはCTR(Cardio-Thoracic Ratio)と呼ばれ、胸郭に対して心陰影がどれくらいの割合を占めているかということです。
- 心胸郭比(CTR)=(a+b)/c×100(%)
上記の式で表され、成人男性では50%以下が正常範囲とされています。
50%以上は心拡大を疑われますが、胸部X線検査はX線で臓器の影を見ているので、フィルムから離れたり、レントゲンの撮影の仕方などで多少変化します。
次に手術の時に必ず挿入する中心静脈カテーテルについて説明します。
中心静脈カテーテル(CV:Central Vein)とは
心臓血管外科では中心静脈カテーテルを術中の薬物投与の安定的経路の継続的確保のため、手術症例全例で挿入します。
手術終了後、集中管理室(ICU)で薬剤投与や高カロリー輸液などの投与経路として必要になります。
また、透析時のブラッドアクセスや中心静脈圧の測定に使用します。
- 中心静脈とは
- 上大静脈や下大静脈などの心臓に近く、太い血管のことです。臨床的に中心静脈カテーテルを挿入する血管は体表に近く、挿入しやすい血管を選択します。
- ●内頸静脈
- 首にある太い血管であり、中心静脈カテーテルの第一選択になりやすいです。合併症としては挿入時の後穿刺により、内頸動脈損傷、腕神経叢損傷、気胸(肺に穴が開くこと)などがあります。
- ●鎖骨下静脈
- 昔はよく選択されていましたが、今はほとんど挿入することはありません。気胸の合併症が多く、手技的に煩雑であるためです。
- ●大腿静脈
- 緊急処置の際に選択されることが多いです。エコーガイド下で無くても容易に挿入することができるためです。挿入後、足の可動域制限があるため、リハビリの開始が遅れることがあります。
カテーテル先端の部位を確認のため内中心静脈カテーテル挿入後は胸部レントゲンを撮影します。
前述した、大動脈バルーンパンピング (IABP)、経皮的補助法(PCPS)や後述するスワンガンツカテーテル(右心カテーテル)も同時に写っています。
ここに中心静脈カテーテルも同時に写っており、挿入長はだいたい、右内頸静脈で13cm、左内頸静脈で15cmが目安です。
体型によって微調整することがあります。
末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC:Peripherally Inserted Central Catheter)とは
上記の手技では挿入するカテーテルが太くなりやすく感染症のリスクが高いためできるだけ早く抜去する必要があります。
臨床では抗癌剤や長期留置が必要となった際に尺側皮静脈から上大静脈まで挿入する、末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC:Peripherally Inserted Central Catheter)を使用することもあります。
メリット
- 基本的に入れ替える必要がなく、長期留置可能です。
- 腕からの挿入のため、気胸の合併症がなく首や足にカテーテルがあるより非常に管理しやすいです。
- 採血もできます。
デメリット
- 中心静脈カテーテルと比較してカテーテルが細いので詰まることがあります。
- 挿入部位も長いため静脈炎になることもあります。
目安としては右尺側皮静脈から挿入の場合は40cm、左尺側皮静脈から挿入の場合は45cmとしています。
日本では中心静脈カテーテルはその手技の特性と気胸など合併症が起きれば追加の処置が必要となるため医師のみが施行となっている施設が多いです。
末梢挿入式中心静脈カテーテルは定められた講習を受講すれば看護師でも施行可能とする病院もあります。まだまだ日本では認めている病院は多くないのが現状です。
今後少しずつでも増えてくることを願っています。
まとめ
- 胸部レントゲン
胸部レントゲンは胸部にX線を照射して、肺・気管・肺胞、心臓・大血管、横隔膜などの照射範囲の臓器・器官の異常を調べる検査です。
- 胸部レントゲンの心陰影の見方
右第1-2弓、左第1−4弓にそれぞれ心臓の場所を反映している。
- 心胸郭比
心胸郭比(CTR)=(a+b)/c×100(%)
上記の式で表され、成人男性では50%以下が正常範囲とされています。
- 中心静脈カテーテルとは
薬物投与、高カロリー輸液、透析時のブラッドアクセス、中心静脈圧の測定などの継続的確保のため内頸静脈などの体表に近く、挿入しやすい血管から挿入するカテーテルのことです。
- 末梢挿入式中心静脈カテーテル
長期留置が必要となった際に感染症などの合併症予防のため尺側皮静脈から上大静脈まで挿入するカテーテルのことです。
今回はこれで終わります。お疲れ様です。
次回は循環器系の採血で重要なBNPとトロポニンについて説明します。
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