循環器各論―大動脈疾患
大動脈疾患
- 大動脈瘤
- 大動脈解離
- 大動脈炎症候群
今回は胸部大動脈瘤の治療・手術適応に関して説明します。
- 大動脈とは
- 大動脈瘤とは
- 有病率
- リスク因子・原因s
- 分類
- 有病率
- リスク因子
- 症状
- 検査
- 治療・手術適応
- 合併症
治療・手術適応
大動脈瘤の治療には内科的治療と外科的治療があります。
外科的治療は手術のことで開胸外科手術と血管内治療があります。
内科的治療
✔︎生活習慣の改善
高血圧症、脂質異常症(特に高コレステロール血症)、糖尿病、高尿酸血症、肥満ならびに喫煙などの動脈硬化性危険因子について十分に患者に指導し、禁煙を含めた生活習慣の改善がきわめて重要である。
手術適応前の病期においては、瘤や解離の拡大予防と併存疾患の進行を防ぐことが最大目標となります。
手術後も一生涯の併存疾患管理は大動脈疾患患者の生命予後、経過に強く影響を及ぼします。
- 血圧コントロール:130/80 mmHg未満が妥当と考えられています。
- 運動制限・生活指導:喫煙・暴飲暴食・過労・睡眠不足・精神的ストレスなどを避ける
最大短径が45 mm未満では1年ごと、45 mm以上55 mm未満であれば3~6ヵ月ごとにCT検査を行います。
Marfan症候群などの遺伝性結合織異常の症例では、45 mm以上で侵襲的治療を検討します。
外科的治療の適応
破裂の危険因子は、下行・腹部大動脈径、高齢、疼痛、COPDなどとされている.
破裂あるいは解離が発生する率は
- 40 mm未満で 7.1%,
- 40~50 mm未 満 で 8.5%,
- 50~60 mm未満で 12.8%,
- 60 mm以上で 45.2% とされています。
小径では遅く、瘤径の拡大とともに速くなります。
一般的に無症状では胸部最大短径55 mm以上、あるいは6ヵ月で5 mm以上拡大する急速増大例では,侵襲的治療(外科手術,TEVAR)を考慮します。
Marfan症候群のような遺伝性結合織疾患や先天性二尖弁、大動脈縮窄症の例では45 mmを超えた場合に侵襲的治療を検討します。
嚢状大動脈瘤は径が大きくなくても破裂のリスクが高いので、形状にも注意します。
いずれにしても,有症状である場合は破裂のリスクがあり、胸部大動脈瘤も腹部大動脈瘤も手術適応と考えられます。
弓部大動脈以下では遺伝性大動脈疾患がない場合は、弓部で≧55 mm、下行・胸腹部で≧60 mmを侵襲的治療の適応基準です。
解離や破裂などの合併症を起こす確率は、上行大動脈瘤では60 mm、下行大動脈瘤では70 mmで急激に高くなるhinge pointが認められます。
外科的治療
外科的手術の第一目的は大動脈壁の破綻による生命の危機を防ぐことです。その他は、大動脈瘤による隣接臓器圧迫の解除や灌流障害の改善、塞栓症の予防などがあります。
外科的治療の基本は人工血管置換術です。近年では低侵襲治療としてステントグラフト内挿術があります。
人工血管置換術
大動脈瘤に対する治療は、1960年代より大動脈瘤を切除して人工血管に置き換える方法が行われるようになりました。 この人工血管置換術は最も標準的な治療法であり、唯一の根治的治療として、日本を含む全世界で行われています。
人工血管はポリプロピレン製とePTFE(expanded polytetrafluoroethylene)製に大別されます。
手術術式は,瘤化(拡大)の範囲、大動脈弁の状態、バルサルバ洞の状態、瘤の成因病理(遺伝性結合織異常、炎症性疾患、解離など)などを考慮して決定されます。
大動脈瘤の部位により術式や気をつける点は異なります。
- 大動脈基部―大動脈弁まで病変が及んでいれば大動脈弁手術を同時に行います。また、冠動脈は再建します。
- 上行・弓部大動脈―真性の胸部大動脈瘤の中では約50%を占め、最も発生率が高い瘤です。脳血流の保護が一番大切になります。必要であれば弓部分枝の再建をします。
- 下行大動脈―脊椎を栄養する動脈が分岐しているため脊椎虚血の予防が大切であり必要であれば肋間動脈再建をします。
ステントグラフト内挿術
胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)の基本的な目標はステントグラフトによる瘤空置と瘤内の減圧による破裂治療ならびに破裂予防です。
ステントグラフトを行う場合は、人工血管置換術とは異なりステント留置位置が非常に重要となるためZone分類を用いて正確に表記する必要があります。
✔︎Zone分類
- Zone 0ー上行大動脈
- Zone 1ー腕頭動脈直下〜左総頸動脈
- Zone 2ー左総頸動脈〜左鎖骨下動脈
- Zone 3ー左鎖骨下動脈から末梢
※Zone 0をさらに細分化します。
- Zone 0A―大動脈弁輪〜冠動脈
- Zone 0B―冠動脈〜右肺動脈上縁
- Zone 0C―右肺動脈上縁〜腕頭動脈
ステントグラフト内挿術の適応は大動脈瘤の病態よりは解剖学的条件が重要です。
✔︎胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)の標準適応
- 病変部分の中枢側・末梢側に20 mm以上の直線的な大動脈壁の存在
- ステントグラフト径はそのlandingする大動脈の径に対し10~30%のオーバーサイズが必要なため、ステントグラフトが接合する大動脈の径は42 mm以下が原則です。
- ステントグラフトにおけるアクセスは、そのシース径が極端に太いため(最大内径24 Fr,外径27 Fr)、シース挿入部位(多くは大腿動脈、場合により総腸骨動脈,腹部大動脈から挿入される)は8mm以上なければならない。
※7Fr=2.3mm、8 Fr=2.7mm、9 Fr=3.0mm、10 Fr=3.3mm
✔︎胸部下行大動脈瘤(遠位弓部大動脈瘤)に対して行う場合
良好な中枢側landingを得るため、弓部分枝をカバーする形でステントグラフト留置が行われます。脳・脊髄神経合併症の観点からは再建(左総頚-左鎖骨下動脈バイパスなど)が推奨されています。
バイパスをする場合をdebranchin(枝を切り離す)といいます。
●1debranching Zone2 TEVAR
●2debranching Zone1 TEVAR
●3debranching (total debranching) TEVAR
✔︎胸部下行大動脈瘤に対して行う場合
腹腔動脈をカバーしてその末梢側landingを得る場合があります。上腸間膜動脈からの側副血行を確認して単純閉鎖かバイパスなどによる血行再建を考慮するべきです。
長区間(≧200 mm)留置する場合は、Adamkiewicz動脈を閉塞する可能性が高いため、脳脊髄液ドレナージが脊髄神経合併症の減少に有効であるとの報告が多いです。
今回はこれで終わります。お疲れ様でした。
次回は合併症について説明します。
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