循環器各論―大動脈疾患
大動脈疾患
- 大動脈瘤
- 大動脈解離
- 大動脈炎症候群
今回は大動脈瘤に関して説明します。
- 大動脈とは
- 大動脈瘤とは
- 有病率
- リスク因子・原因s
- 分類
- 有病率
- リスク因子
- 症状
- 検査
- 治療・手術適応
- 合併症
- 予後
大動脈とは
大動脈は、心臓からの出た酸素の豊富な血液(動脈血)を脳や腎臓、肝臓などの重要臓器に運ぶ、体の中で最も太い血管(直径15−20mm)です。
大動脈は心臓から出た後に大動脈弁から頭の方向に向かいます(上行大動脈)
→脳や腕に栄養を運ぶ3本の血管を分枝し(弓部大動脈)、Uターンして足の方へ向かいます。
→弓部大動脈末梢側から横隔膜までの部分を下行大動脈、横隔膜から左右の下肢に分岐する部分(左右総腸骨動脈)までを腹部大動脈といいます。
腹部大動脈からは腸管血流に大切な腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈が分枝し、さらに左右腎動脈も分枝します。
大動脈瘤とは
大動脈の正常径は、一般に胸部で30mm,腹部で20mmです。
大動脈の最大径が1.5倍以上を瘤化といいます。胸部では45mm、腹部では30mmです。
大動脈瘤には部位による分類、形態による分類、病理学的分類があります。
大動脈瘤の分類
✔︎大動脈が瘤化する部位による分類
- 胸部大動脈瘤―心臓から横隔膜までの胸部大動脈に発生した瘤
- 胸腹部大動脈瘤―横隔膜を挟んで発生し、胸部大動脈と腹部大動脈にまたがる瘤
- 腹部大動脈瘤―横隔膜から左右総腸骨動脈に発生した瘤
✔︎大動脈瘤の形態による分類
大動脈の血管壁の一部が局所的に拡張して(こぶ状に突出して,嚢状に拡大して)瘤を形成する場合, または直径が正常径の1.5倍(胸部で45mm,腹部で30mm)を超えて拡大した(紡錘状に拡大した)があります。
- 紡錘状大動脈瘤―紡錘状に拡大した大動脈です。
- 嚢状大動脈瘤―一部が局所的に拡張し、嚢状に拡大した大動脈で紡錘状大動脈瘤より破裂するリスクは高いです。
✔︎病理学的分類
病理学的分類には真性動脈瘤と仮性動脈瘤があります。
- 真性動脈瘤:紡錘状瘤に多く、動脈の3層構造が保たれている瘤のことです。
- 仮性動脈瘤:嚢状瘤に多く、内・中膜が破綻して、外膜のみで形成されている瘤です。
有病率
大動脈瘤の大半である動脈硬化性・真性・大動脈瘤の有病率は60歳以上から高くなります。
しかし、日本で大規模に大動脈瘤の有病率について調べたデータはありません。
大動脈瘤の発生は白人に多いため疫学情報はほとんど欧米から発信されています。
胸部大動脈瘤は腹部大動脈瘤より少なく、10万人に6人とされています。
大動脈瘤の自然歴に関して累積生存率(大動脈瘤の人が治療しなかった場合の生存率)は以下の通りです。
- 上行大動脈瘤―1年 89%、3年 82%、5年 82%
- 弓部大動脈瘤―1年 85%、3年 74%、5年 49%
- 腹部大動脈瘤―1年 84%、3年 50%、5年 22%
死因の50%は大動脈瘤破裂です。
リスク因子
腹部腫瘤の有病率は加齢とともに増加します。
海外の調査では、男性の有病率は
- 45歳~54歳ー2.6%
- 55歳~64歳ー6.2%、
- 65歳~74歳ー14.1%
急激に増加します。
また、有病率は女性よりも男性で高く、喫煙、高血圧、冠動脈疾患、家族歴などもリスク因子です。
日本人の腹部大動脈瘤の患者数は、高齢化が急速に進んでいるため、今後さらに増加すると考えられます。
以下は欧米のデータです。
✔︎腹部大動脈瘤のリスク因子
- 男性:女性より4-5倍
- 65歳以上:2.2倍
- 喫煙:現在喫煙7.4倍、過去喫煙歴3.6倍
- 高血圧(高圧薬服用):1.6倍
- 冠動脈疾患
- 家族歴:4.3倍
✔︎胸部大動脈瘤
- 年齢:60歳以上
- 男性:女性より2-3倍
- 高血圧:大動脈瘤患者の60%以上
- 腹部大動脈瘤との合併:20-30%に合併している。大動脈瘤の患者の13%が多発性
原因
大動脈瘤ができる主な原因は、動脈硬化です。
動脈硬化とは、高血圧症や高脂血症(コレステロール値や中性脂肪値が高い状態)などにより動脈が固く、もろくなった状態です。
その他の原因には、外傷、大動脈炎(大動脈が炎症を起こす疾患)、マルファン(Marfan)症候群などの先天的な遺伝性疾患、梅毒などの感染症があります。
✔︎マルファン(Marfan)症候群
遺伝子の異常により組織と組織を繋ぐ結合組織が弱くなって、全身で細胞の弾力性がなくなる病気です。マルファン症候群による大動脈瘤は、上行大動脈に最も多く発生します。
大動脈瘤は基本的には症状はないですが、出現部位や大きさによって症状が出現します。
そのため、次回からは胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤に分けて説明します。
今回はこれで終わります。お疲れ様でした。
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