循環器各論―静脈疾患
下肢静脈疾患
- 下肢静脈瘤
- 深部静脈血栓症
- 静脈炎
今回は下肢静脈瘤の6.7.8に関して説明します。
- 下肢静脈瘤とは
- 分類
- 症状
- 原因
- 検査
- 手術適応
- 治療
手術適応
✔︎絶対適応(医者が治療を進める場合)
血栓性静脈炎(静脈瘤に固く痛いしこりができ、赤く腫れます)、皮膚炎(湿疹)、色素沈着(湿疹の後遺症)、蜂巣炎(皮下組織の炎症)、皮膚潰瘍などです。
✔︎相対適応(患者さんが希望する場合)
夕方の下肢のむくみ、だるさ等で生活の質が低下しており、患者が治療を希望していることが挙げられます。
美容面の愁訴のみで下肢静脈瘤の症状がない場合は、健康保険の適応にはなりません。
皮膚炎以上進行する場合は静脈瘤治療しても下肢症状は改善しますが皮膚症状は改善しません。
そのため、皮膚症状が出現する前に下肢症状が出ている場合は治療を進めています。
✔︎形態的適応
静脈血管径に関してはストリッピング術は特に制限はありません。
血管内治療の適応はレーザー治療は20mm以下、高周波治療は18mm以下の伏在静脈本幹とされています。
静脈の屈曲、部分的閉塞や内腔の索状組織によりカテーテルが挿入不可、治療静脈が短すぎる場合などは検討が必要です。
治療
治療には外科的治療・保存的治療があります。
基本的に外科的治療の適応は一次性静脈瘤です。
- 一次性静脈瘤は構造的疾患であるため外科的治療をしないと根治しません。
- 二次性静脈瘤は深部静脈血栓の治療をします。
外科的治療
外科的治療には以下のようなものがあります。
- ストリッピング術
- 高位結紮術
- 静脈瘤切除術
- 硬化療法
- 血管内焼灼術
- 接着剤治療(グルー治療)
- ストリッピング術
ストリッピング術は19世紀から下肢静脈瘤の根治的な治療法として、大伏在静脈・小伏在静脈領域に対して行われていました。弁不全を起こしている静脈を引き抜いてしまう方法です。足の付け根や膝など皮膚を2~3cm程度切開し、弁不全を起こした表在(伏在)静脈の中に手術用ワイヤー(ストリッパー)を通して、 この血管を引き抜きます。
原因静脈を摘出するため手術部位の再発はありません。治療部位以外の静脈が再度弁不全が出現し再発することはあります。全身麻酔や下半身麻酔、局所麻酔(TLA麻酔)で行います。
- 高位結紮術
高位結紮術とは、弁不全を来している表在静脈を深部静脈の合流部で切除し、断端を縛って、血液の逆流を止める治療方法です。
静脈瘤の発症源が大伏在静脈であれば鼠径部(足のつけ根)、小伏在静脈であれば膝の裏を局所麻酔後に切開し患部である静脈を長さ3cm程切除します。その際に血管の断端を縛って逆流を完全に止めます。切開部分の傷はストリッピング手術のものより小さく、また、局所麻酔であるため日帰りの治療が実施できるというのが、高位結紮術のメリットです。
しかし、高位結紮術は姑息的手術であるため再発の可能性は他の手術と比べて大きいです。
- 静脈瘤切除術
静脈瘤切除術は拡張している血管を切除することです。
ストリッピング術や血管内焼灼術などの手術と併用して行われます。
以前は皮膚を10−20mm程度切除して、拡張血管を切除していましたが、現在は局所麻酔(TLA麻酔)で血管と周囲の組織との結合を緩くして1-2mmの創で施行するstab avulsion法で行われています。
- 硬化療法
硬化療法とは弁不全を期待している静脈に硬化剤を注射し、炎症を起こして静脈瘤を閉鎖する治療法です。
クモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤、側枝静脈瘤など3mm以下の細い静脈瘤に対して外来で行われます。
再発率が高く、注射をした場所にしこりや痛みがしばらく発生し、硬結や色素沈着が消えるのに1-2年要することが多いのが欠点です。
- 血管内焼灼術
血管内焼灼術とはレーザーファイバーや高周波カテーテルを弁不全をきたした逆流血管に挿入し、病的な血管を血管内から焼灼し塞いでしまう方法です。
下肢静脈瘤の治療方法の変化
2011年にレーザー治療が保険適応となりました。波長980mmのレーザー装置のみ使用でき、従来のストリッピング手術に比べ、局所麻酔・日帰り手術・疼痛の軽減などが期待されました。しかし、疼痛・皮下出血などの合併症が多く問題となってました。
2014年に上記問題を解決するために波長1470mmレーザー装置・高周波治療(ラジオ波)が新しく保険適応となりました。波長980mmと比べて疼痛や皮下出血の合併症は格段と少なくなりました。
レーザー治療と高周波治療の違い
レーザー治療は、下肢静脈瘤の原因静脈に光ファイバーを挿入し、深部静脈との合流部まで挿入します。TLA麻酔を静脈全長に注入します。合流部より20mm末梢から波長1470mmで照射し血管内を焼却しながらながらファイバーを牽引し血管を閉鎖していきます。
高周波治療とは周波数30-300メガヘルツの電磁波のことです。下肢静脈瘤の原因静脈に高周波カテーテルを挿入し、深部静脈との合流部まで挿入します。TLA麻酔を静脈全長に注入します。合流部より20mm末梢から電極を挟み込むようにつけて電流を流して加熱します。電流が静脈を流れる際に電気抵抗によって発生した熱により静脈を閉鎖します。
レーザー治療も高周波治療も血管を焼いて閉じるという点においては全く同じです。レーザーで焼くか高周波で焼くかだけの違いでどちらの治療にも優劣はありません。
新しい波長1470nmレーザーと高周波ではその治療の効果や手術の痛みや皮下出血などの副作用に差は認められません。
- 接着剤療法(グルー治療)
2018年12月より保険適応となった、もっとも新しい治療です。正式には下肢静脈瘤血栓塞栓術といいます。
血管内焼灼術と同様に治療目的の静脈内にカテーテルを挿入し、医療用接着剤を注入して固めることで病的静脈を処理することです。
接着剤にアレルギーが出る方は施行できず、静脈瘤が大きい場合は後日硬化療法が必要となります。
血管内焼灼術と異なり、熱を使用しないため疼痛や神経障害のリスクは減少します。また、術中に使用する局所麻酔も少量で済みます。
静脈の組織自体は時間とともに体内に吸収されて消失しますが、接着剤は人工物ですので吸収されず、固めた静脈に沿った形で線状に残ります。
また、臨床試験において治療後3年で94.4%の閉塞率が報告されています。
今回はこれで終わります。お疲れ様でした。
次回は保存的加療を説明します。
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